2012、なな

4/11
前へ
/76ページ
次へ
あぁ、そうすれば涙腺も要らないなあ。 悲しむことがない。 それでも、もし悲しいことが起こったとする。 涙腺がないから、口で叫ぶ。けれど、叫べば叫ぶほど、悲しくなる。 口を取り除いてやろうか。いつでもにこにこできる。 それに、と続けようとする人影に僕は徐々に不快感を味わっていた。 「それじゃあ、まるでのっぺらぼうじゃないか」 にこり、怖い笑みで人影は微笑んだ。 「いいじゃないかぁ、のっぺらぼう。悲しまないさぁ」 「……………」 変なエコーが気にさわる。 僕は黙って、それから唇を噛んだ。 「――嫌だよ。やだよ」 むむむぅ、と人影――自称神様が唸った。 「僕は好きな人の声も聞きたいし、話したい」 「…………むぅ」 「泪を流すこともしたい。きちんと、気持ちを理解したいんだ」 きみは。きみは。 エコーの掛からない声で人影が言った。 きみはきみは、どうして嫌がるのかねぇ。 「嫌がるさ。もちろんだとも」 僕は言った。 「僕は、僕らしく居たいんだよ」
/76ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加