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あぁ、そうすれば涙腺も要らないなあ。
悲しむことがない。
それでも、もし悲しいことが起こったとする。
涙腺がないから、口で叫ぶ。けれど、叫べば叫ぶほど、悲しくなる。
口を取り除いてやろうか。いつでもにこにこできる。
それに、と続けようとする人影に僕は徐々に不快感を味わっていた。
「それじゃあ、まるでのっぺらぼうじゃないか」
にこり、怖い笑みで人影は微笑んだ。
「いいじゃないかぁ、のっぺらぼう。悲しまないさぁ」
「……………」
変なエコーが気にさわる。
僕は黙って、それから唇を噛んだ。
「――嫌だよ。やだよ」
むむむぅ、と人影――自称神様が唸った。
「僕は好きな人の声も聞きたいし、話したい」
「…………むぅ」
「泪を流すこともしたい。きちんと、気持ちを理解したいんだ」
きみは。きみは。
エコーの掛からない声で人影が言った。
きみはきみは、どうして嫌がるのかねぇ。
「嫌がるさ。もちろんだとも」
僕は言った。
「僕は、僕らしく居たいんだよ」
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