2012、なな

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「さようなら」 ふわふわ浮かぶ、かぶとむしが言った。 「僕は人に踏まれて死んだけれど、憎んだことはないよ」 立ち尽くす人影をらんらん、と見詰めて。 かぶとむしが消えた。 いや、人として、落ちていった――……。 人影は呟いた。 「僕の将来も考えてくれよ」 あのかぶとむしと同じ声で。 「とても苦しむんだからさ……」 エコーもかけず。 きらきらした、あの有彩色の衣を捨てた。 さっぱりとした身なりの黒人が姿を現した。 「家族が戦争でいなくなり、差別されて妻と息子を殺されて!」 軽い口調で、ぽろぽろ、泪を流しながら話す。 「前世はかぶとむし!不幸だなあ!」 それからため息をついて、ゆらゆら、掻き分けて下界の穴を見つける。 「タイムスリップの、異世界への混入ができる能力があったのは、幸いかな?」 落ちた。 苦しみばかりの、下界へと。 けれど、男の口元には笑みが浮かんでいた…。 《完》
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