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「・・・!」
それは、もはや人間の原型を留めていなかった。
顔のほとんどが赤く染められている・・・血だ。
目は充血し、歯は赤一色だ。
「いや・・・!」
後ろで短い悲鳴が上がる。静香ちゃんの声だ。
それを引き金に、のび太の恐怖心が猛スピードで這い上がってくる。止めることはできない。
「アァァ・・・」
ママだったものは、立ち上がり、こちらへ向かって一歩進む。
「あ・・・あ・・・」
のび太は一歩後退する。
これは夢だ・・・そう・・・夢だ。悪い夢なんだ。目を閉じて、しばらくすれば、そこは自分の部屋・・・
押入れにはドラえもんが――
「アァァァァァァァ!」
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
もはやのび太には何が現実で何が夢なのか区別ができなかった。
ただ、そこから逃げ出したい―
その思いだけが、のび太の心を崩壊させた。
体を傾けながら180度ターン。そして分け目もふらずに走り出す。
誰にぶつかったのか、何にぶつかったのかも気にすることもなく、暴走列車のように無我夢中で走り続けた。
逃げたかったのだ、この区別のつかない世界から・・・
しかし、走り続けたといっても数メートルほどのことだった。
足がからまって、体が前に傾く。
しまった―― と思うのも束の間、彼の身体は思いっきり床に叩きつけられた。
「っ゛・・・!」
声にならない悲鳴を上げる。頭を打ったのか、酷い頭痛と耳鳴りがした。
意識が遠くなっていくのが分かった。このまま死んで―― いや、目が覚めるのだろうか?
今、台所では何が起きているのか分からない。
ドラえもん達はどうなったのか、ママは、パパは・・・・・・・・・・・・
そこでのび太の意識は途切れた。
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