五、 出張

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「───だがその責任とやらを履き違えるな……。 ……責任つぅのは決して、周りの目を気にして全うするもんじゃねぇ。 隊を背負ったからと言って、善いことだけすりゃあいいってもんじゃねぇんだよ。」  芹沢の話は諭すような口調でもあり、また意見を交換する時のような口振りでもあった。  不思議とその言葉は、スッと近藤の心に流れ、何の違和感もなく馴染んだ。 「……俺はなぁ、近藤。」  ふと、芹沢の帯びる雰囲気が変わった。そして続ける。 「自分が、その責任は全う出来なかったさ……。 ──大分前に俺には、責任を取ることは出来ないと知った。 同志たちの道を、責任を持って幸せに出来ないと思った、……いや、諦めた。」  そう言う芹沢は決して自嘲するようではなかった。 「……だから己は、 ────如何なるときでも同志と共に、それより先に居ようと決めた。 皆が悲しむときはその倍を、俺がその同志の代わりに悲しむ。 皆が怒り憎むときは、代わりにそいつを殺める。 同志の負を己が背負うと決めた。……俺は上には立てねぇ。」  喉を、……失った。  芹沢という男の覚悟を目の当たりにした近藤には、もはや声など必要なかった。  その芹沢の覚悟は、……犠牲。 「……近藤、俺はお前なら上に立てると、──判る。」  不意の言葉に、思わず近藤は芹沢を凝視してしまった。 「なにを言う……買い被りだ。」  消え入るような声が近藤の口から出た。
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