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何も言わない佐井に、空気が張り詰めるのがわかった。
「……俺がてめえを刺さねぇと高を括ってんなら間違いだ。」
新見は佐井に言葉を促す。その冷徹な眼に捉えられ、平静でいられる佐井の方が珍しい。
「俺ぁ……死ぬ気はありやせんよ。」
静かに言った佐井に、新見は満足気に笑みを浮かべた。その先に命乞いが続くかと思ったからだ。
────しかしそれは間違いで、佐井はその感情を映さない眼で、自身に刀を向ける新見を見上げた。
「────俺を殺そうってなら、……俺ぁ土方さんから、貴方の息の根を止めちゃならんとは聞いてやせん。」
……それは完全な挑発だった。
刀も抜いておらず、体勢も座ったままという、圧倒的に不利な状況で、佐井は新見を挑発したのだ。
「……嘗(な)めた口利くじゃねぇか。」
怒りで瞳孔が開いた新見は、相手の恐怖を煽るように……ゆっくり刀を振り上げた──。
「────止まれ、新見。」
……新見の動きが止まった───。
いつの間にか、部屋に巨漢が入っていた。
切れ長の目に、堂々とした立ち振舞いは貫禄を生む。
……この男こそ、壬生浪士組もう一人の局長、芹沢鴨(せりざわかも)だった──────。
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