一、 入隊

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 何も言わない佐井に、空気が張り詰めるのがわかった。 「……俺がてめえを刺さねぇと高を括ってんなら間違いだ。」  新見は佐井に言葉を促す。その冷徹な眼に捉えられ、平静でいられる佐井の方が珍しい。 「俺ぁ……死ぬ気はありやせんよ。」  静かに言った佐井に、新見は満足気に笑みを浮かべた。その先に命乞いが続くかと思ったからだ。  ────しかしそれは間違いで、佐井はその感情を映さない眼で、自身に刀を向ける新見を見上げた。 「────俺を殺そうってなら、……俺ぁ土方さんから、貴方の息の根を止めちゃならんとは聞いてやせん。」  ……それは完全な挑発だった。  刀も抜いておらず、体勢も座ったままという、圧倒的に不利な状況で、佐井は新見を挑発したのだ。 「……嘗(な)めた口利くじゃねぇか。」  怒りで瞳孔が開いた新見は、相手の恐怖を煽るように……ゆっくり刀を振り上げた──。 「────止まれ、新見。」  ……新見の動きが止まった───。  いつの間にか、部屋に巨漢が入っていた。  切れ長の目に、堂々とした立ち振舞いは貫禄を生む。  ……この男こそ、壬生浪士組もう一人の局長、芹沢鴨(せりざわかも)だった──────。
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