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文久三年、京。
街は賑わい、街の人々の顔には笑顔があった。
しかし、光があれば陰も出来るように、湿った空気の流れる場所もまたある。
京都守護の為集った“壬生浪士組”の屯所だ。
「……中々集まらないもんだな。少し甘く見ていたようだ。」
煙管を吹かせながら退屈そうにそう洩らしたのは、壬生浪士組副長、土方歳三(ひじかたとしぞう)だった。
漆のように黒い髪をした色男で、何人もの女性を虜にしたとかしなかったとか。
「まだ始まったばかりじゃないか。すぐに集まってくるさ。……しかし、こんな時まであの人は島原か。」
そう言った強面のこの大男は、壬生浪士組局長の一人、近藤勇(こんどういさみ)であった。
「シャキッとしてくださいよ。だらけた気持ちは皆にも伝染します。」
二人に厳しく諭したのは壬生浪士組副長、山南敬助(やまなみけいすけ)だった。
知的な雰囲気を漂わせ、近藤と並べばなよなよした印象も受ける男だ。
「たしかに、だらけて待つだけってのも男らしくない──。街に出て適当にめぼしい奴でも連れてくるか。」
「……それなら既に沖田くんが出向いてますよ。」
意気込んだ土方を山南はその一言で黙らせた。
「大分前に出たものですから、そろそろ帰って来てもいい頃ですけど。」
話題に出たついでに、山南はまだ沖田が帰っていないことに気がついた。
しかし、噂をすればなんとやら……。遠くから土方を呼ぶ声がした。
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