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「はぁー…。入隊に試験とかはないと、言ってませんでしたっけ?」
悪戯っ子のような笑みを浮かべる土方に沖田はため息を吐いた。
「すいません、道場まで来てもらえますか。」
が、ああ言いつつすぐ少年の所へ向かって行った辺り、沖田は満更でもないようだった。
「はい。道場ってのはどこどすか?」
「あっ、私に付いてきていただければ結構です。」
それを承諾した少年は、道場に向かう沖田の後を付いていった。
「そういえば、名前をお聞きしてませんでしたね。──私は沖田総司と申します。」
道場に向かう途中、歩きながら沖田が少年に訊いた。
「……そりゃ、申し遅れてすいやせん。俺ぁ佐井良作(さいりょうさく)といいます。」
少年……もとい佐井の、その容姿や声と合わない訛りを聞いた沖田はふと疑問に思ったが、特に気にしなかった。
「こちらが道場です。」
そして早くも道場に着いた。
道場には数人の男がたむろっていた。その男達も、なかなか人の来ない道場で退屈していたようだ。
「どうぞ佐井さんは防具や竹刀を選んでいてください。……そこが竹刀であっちに防具があります。」
「分かりやした。」
佐井が頷いたのを確認すると沖田は、沖田達の登場により生気を取り戻してきた男達のもとへ行った。
「──永倉さん、審判お願いできますか?」
沖田は数人のうち一人に頼んだ。
背が高く沖田と比べると体格のいい男の名は、永倉新八(ながくらしんぱち)と言った。
永倉は黒く短い髪で、気さくな雰囲気を持っていた。
「──おう。だが総司まさか、お前が相手するのか…?」
永倉は一度引き受けるも、気にかかることがあるらしく心配気に聞いた。
「そのまさかですが……心配には及びませんよ。きっとすぐ解ります。」
沖田は意味深に言うと、既に竹刀を持ち準備が出来ている佐井を見た。
その立ち姿に、沖田は笑みを隠すことが出来なかった。
そしてそれを見た永倉も、それ以上沖田を止めようとはしなかった。
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