一、 入隊

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「はぁー…。入隊に試験とかはないと、言ってませんでしたっけ?」  悪戯っ子のような笑みを浮かべる土方に沖田はため息を吐いた。 「すいません、道場まで来てもらえますか。」  が、ああ言いつつすぐ少年の所へ向かって行った辺り、沖田は満更でもないようだった。 「はい。道場ってのはどこどすか?」 「あっ、私に付いてきていただければ結構です。」  それを承諾した少年は、道場に向かう沖田の後を付いていった。 「そういえば、名前をお聞きしてませんでしたね。──私は沖田総司と申します。」  道場に向かう途中、歩きながら沖田が少年に訊いた。 「……そりゃ、申し遅れてすいやせん。俺ぁ佐井良作(さいりょうさく)といいます。」  少年……もとい佐井の、その容姿や声と合わない訛りを聞いた沖田はふと疑問に思ったが、特に気にしなかった。 「こちらが道場です。」  そして早くも道場に着いた。  道場には数人の男がたむろっていた。その男達も、なかなか人の来ない道場で退屈していたようだ。 「どうぞ佐井さんは防具や竹刀を選んでいてください。……そこが竹刀であっちに防具があります。」 「分かりやした。」  佐井が頷いたのを確認すると沖田は、沖田達の登場により生気を取り戻してきた男達のもとへ行った。 「──永倉さん、審判お願いできますか?」  沖田は数人のうち一人に頼んだ。  背が高く沖田と比べると体格のいい男の名は、永倉新八(ながくらしんぱち)と言った。  永倉は黒く短い髪で、気さくな雰囲気を持っていた。 「──おう。だが総司まさか、お前が相手するのか…?」  永倉は一度引き受けるも、気にかかることがあるらしく心配気に聞いた。 「そのまさかですが……心配には及びませんよ。きっとすぐ解ります。」  沖田は意味深に言うと、既に竹刀を持ち準備が出来ている佐井を見た。  その立ち姿に、沖田は笑みを隠すことが出来なかった。  そしてそれを見た永倉も、それ以上沖田を止めようとはしなかった。
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