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最初に動いたのは佐井だった。
「速い……!」
思わず審判の永倉がそう洩らす程、佐井の動きは初動から早かった。
しかし佐井のその速度を一時緩め、竹刀を大きく振り上げた。
その様子に、沖田は微笑を浮かべると、降り下ろされる佐井の竹刀を薙いだ。
竹刀を薙ぐというのは些か力押しでもあるが、沖田は高揚する気持ちを抑えられなかった。
佐井の先程の一手は速度を殺した点では評価出来ないが、大きな動作に隙はなく、その気迫は初め見た時の幼さを感じさせなかった。
「はぁっ!」
……ダンッ!
沖田は気合いを入れ、強く踏み出した。
素早く竹刀を降り下ろす沖田に、それを軽く往なす佐井のやりとりが何度か続く。
一瞬たりと目を逸らせない試合の行く末に、いつの間にか道場には多くの人が集っていた。
「二人共……なんつー速さだ。」
軽く試合を見てから立ち去ろうとしていた土方は思わず立ち止まり観戦していた。
「おぅ、土方さん。……あいつ何者だ…?」
土方の存在に気づくと近付いて来た男は原田左之助(はらださのすけ)だった。
土方よりも頭一つ大きな原田は土方とはまた違った男前だ。
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