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「俺も知らねぇなぁ。恐らく新入隊士として入ってくるであろう手練れだよ。」
土方は心底楽しそうに言った。まだ名の知れていない壬生浪士組に更に腕の立つ者が入るのは願ってもないことだった。
原田と土方や、その他の者達は再び一言も喋れなくなった。
先程まで優勢に見えた沖田だったが、一瞬のうちに形勢逆転していたのだ。
佐井の竹刀の先が何度も沖田の急所を狙う。しかし沖田もそれを紙一重で交わしながら後退ってゆく。
息が止まる。傍観者はそんな感覚だ。
佐井の竹刀は本当に沖田を殺そうとしているようで、沖田も反撃の機会を伺いながら射殺すように佐井を見る。
実戦のような緊張感と高揚感に、沖田の額には汗が滲み、その顔には薄ら笑いが張り付いている。
そして、──見つけた。
……バシン!
佐井の竹刀を力一杯弾くと、的確に首もとを狙い突きを出す。
しかし沖田の動きは一瞬遅れた。狙った先の首もとに……喉仏がないのを見たからだ。
その僅な遅れを見逃す筈のない佐井は体勢を低くし、沖田の腹を目掛け竹刀を滑らす。
それに対し沖田は咄嗟に、突きを放った。
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