春の夜の夢

3/5
前へ
/118ページ
次へ
 花見客で賑わう夜の桜並木を歩きながら、万優さんは嬉しそうだ。 「凄いね、満開の桜」  踊るような足取りで歩く姿は、まるで。 「あ、青木くん。熱燗! ワンカップ売ってるよ。買お」 「……ですよね」  ワンカップを手に、桜色に頬を染める彼女は、まるで。 「あ、青木くん。じゃがバター!」 「買ってきます」  あなたが望むものなら、なんでも。 「わあ、ありがと! 半分こしようね」  この笑顔。  今この瞬間は確実に、俺だけのもの。  にやけ顔を必死に隠しながら、ヒールで歩く彼女が転ばぬよう、足元に気を配る。 「万優さん、前見て歩かないと……」  言ったそばからよろめいた彼女を、慌てて後ろから抱きとめると。 「あっつ!」  熱燗をこぼされた。
/118ページ

最初のコメントを投稿しよう!

445人が本棚に入れています
本棚に追加