マラソン中、林道にて

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西暦二千を過ぎて二十六年。暑い夏だ。 蝉が喧しく鳴いていて、アスファルトが熱気で歪んで見える。 じっとりとまとわりつく湿気が毛穴まで塞いでいるかのような錯覚さえ覚えるのに、汗はとめどなく溢れてくる。 体はもう、カラカラだというのに。 善司は哀れな呼吸音を奏でる喉を慰めようと唾を飲み、小さく咳き込んだ。 走る、と言って良いか悩む速度で前進していた脚がもつれる。背嚢が重い。 私立東都防衛学院中等部――一流兵士を育成する場。 現在はそこの年間行事に組み込まれている校外での夏期総合演習の最中だ。 本場の自衛隊や講師からの手荒いもてなしを受け、疲れ果てた彼等に言い渡されたのは十キロマラソンだった。 生徒の心身をいじめぬき、そして鍛え上げる教育方針に、善司は二年目という事実など関係なく悲鳴を上げそうになる。 今はなき親と同じ戦医を目指し入学したは良いが、実技はからっきしなのだ。 「皆は……もう、戻った、かな」 口に出して、善司は琥珀の瞳に暗い色を過らせる。 ――落ちこぼれ。どうして僕は、こんなにダメなんだろう。この前だって橘さんに…… 鬱屈した思考に首を振る。 折り返し地点を過ぎた辺りからネガティブな考えばかりが浮かんでどうしようもない。 いっそ、何も感じないくらい疲れ果ててしまえば良いのに。
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