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ご隠居様のご厚意に感謝をし、僕は工場へ戻った。
角材が綺麗な三角の山を形成して並んでいる。
僕が奉公するこの材木問屋は、運搬もそうだが、加工もある程度行う。
生粋の材木を欲しがる者もいれば、加工する手間を省きたい者もいる。
熊野の上等な古代杉を寺院に使用する。
安価な痩杉を町家に使用する。
初めは同じ杉なら、どんな種類であっても同じではないかと、わざわざ高価な支払いをする商人が疑問だった。
今日はこれから、まだ若木で、しなりが強い赤樫を、大量の木刀を作る目的で購入する商人へ納入する。
木刀一本でも、樫を選ぶ者、枇杷を選ぶ者といる。
銚子より奉公に来ている仲間の一人は、ご主人に頼んで、道場に通わせてもらっている。
そこは多くの門下生がおり、木刀ではなく竹刀を使用すると言う。
竹刀の方が当たっても痛くないと彼は言っていた。
木を選ぶ者もいれば、竹を選ぶ者もいる。
僕は奉公人。
ご主人に仕え働き、与えられるものを受けとる側だが、木材同様に、人は、多種多様の道を選べることを知った。
だが、知っただけで、僕には選ぶ必要は無い。
道に外れず、皆と同じ方向へ進み、そして老いて死ぬだけだ。
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