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リモコンの電源ボタンを押したのに、テレビがつかない。
私はしぶしぶリモコンをひっくり返し、電池をとり出した。
前回電池を交換したのはいつのことだったかと考えつつ、とり出した単四電池を手の中で転がす。
電池の買い置きはしていないから、こうゆう時に困ってしまう。
わざわざ電池のためだけに買い物へ行く気にもなれないし。
手の内でカチカチと音を立てる電池をぼんやり眺めていると、ふいに、呼びかけられた気がした。
顔を上げれば目の前には真っ黒な画面のテレビがある。
私は条件反射でリモコンの電源ボタンを押してしまい、すぐに今しがたリモコンから電池をとり出したばかりだったと思い出す。
電池の入っていないリモコンを片手に、私は苦笑した。少し疲れているのかもしれない。
気になっている番組があるにはあるのだが、そのうちレンタルで見ることができるようになるだろうし、せっかくの休日をテレビの前で過ごすのもつまらない。
電池の買い物ついでに、いっそどこかへ遊びに出かけようかと考えていると。
「おーい、出てこーい」
テレビから声がした。
どこか聞き覚えのある声が電源の入らないテレビから聞こえ、私はまじまじと真っ黒な画面を眺める。
何の変哲もない黒い画面が、次の瞬間、ふにゃりと歪んで見えた。
はっとして、落ち着きなく使い古しの電池を手のひらで擦り合わせる。
まさか、そんなことがあるわけがない、と思いはするものの、電源の入っていないテレビ画面はぐにゃぐにゃと蠢き続けた。
私は警戒心よりもやや好奇心が勝り、波打つ黒へと恐る恐る手を伸ばしてみる。
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