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しかし伸ばしたその手が何かに触れることはなく、黒の表面をすり抜け、そのまま画面の内側に入り込んでしまった。
ヒヤリとした感触にあわてて画面から手を引き抜いたけれど、その拍子に持っていた単四電池を画面の内側に落としてしまう。
手を黒の外に出すと、テレビ画面はぴたりと蠢くのを止めた。
ぞわぞわと鳥肌が立つ。
口の中はからからに渇いていた。
バクバクと暴れる心臓をなだめながら、今のは一体何だったんだろうと首をひねるけれど、考えてもすぐにはそれらしい答えは出てこなかったので、とりあえず何か飲んで落ち着くことにする。
私は冷蔵庫を開き、中を覗いた。
何もない。
飲み物も野菜も卵も味噌も、何もない。それどころか、物を入れるためのスペースすら見当たらない。
よくよく観察してみると、冷蔵庫の内側が黒々とした何かに塗り潰されていた。
黒い何かは見られているのが不快だったのか、先ほどのテレビ画面同様ぐにゃぐにゃと蠢き出す。
どうしていいのかわからない私は、黒にそっと顔を近づけ、あのう、すみませんと声をかけてみた。しかし黒は私の呼びかけに全く反応しない。
一体全体、これは何なんだろうと懸命に考えてみるけれど、頭が痛くなるばかりだ。
大方、疲れて幻でも見ているんだろう。そうだ、そうゆうことにしておこう。
だから、この冷蔵庫の内側を塗り潰している黒も、ただの幻にすぎないに決まっている。
私は、深く考えずに、ともかく飲み物を取り出してみようと決めた。
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