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ワタシが私の顔でニヤリと笑った。
「ヒトは順応する生き物だよ。
テレビや冷蔵庫、洗濯機、扇風機、電子レンジや炊飯器。
そのどれか一つでもナイと困るけれど、ナければナイでどうにかやっていくことも、できなくはない。
できないことでないのなら、なんとかやってのけて、そのうちナイという状態が普通になっていく」
ワタシが握る手の力を強め、ぐいと引き寄せてきた。
私はワタシにされるがまま、引っ張られて抱きつかれる。
ワタシは私の耳元に口を寄せ、そっと言葉を吐いた。
「ま、要するにすぐ慣れるさって話だよ」
言葉が終わると同時に、私はワタシの身体の中に吸い込まれる。
視界が黒一色に塗り潰され、右も左も、上も下もわからない空間に投げ出された。
大声で誰かに助けを求めようとしたけれど、どんなに頑張っても声がでない。
ふわりと体が浮かび上がるのを感じた後、どこか狭い所に押し込められた。
「もっとも、順応できるか否かはどうあれ、私は嫌だけどね」
どこからかワタシの声が降ってくる。
「いつもの風景から猫一匹、鳩一匹抜け落ちるのも。抜け落ちたことに気付きもしなかったり、簡単に忘れ去ってしまうのも。
日々の生活に役立つ家電が使えなくなるのも、もちろん嫌。
例えば、その存在を忘れてしまうくらいあまりにも当然のようにしてある電池が、急にナクなってしまってリモコンが使えず、テレビが見られない、なんてこととか。
例えば、家電を使う側ではなくて使われる側になってしまい、しかも使われると言ってもそれが家電ですらなく、家電を操作するための機械を使うために使用される物になる、なんてこととか」
ぱちりとふたの閉まる音がして、遠くから、テレビのにぎやかな音が聞こえてくる。
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