少年と花束

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夕日があたりを染める中、花束を抱き歩く少年が一人。 ここは集団墓地のはずれである。少年はある墓の前まで来ると、しゃがみこむ。その墓は他の墓と違い、木の十字架で作られた不恰好なものであった。 「千笑(チエミ)…お前が死んでもう5年か」 少年は花を手向けながらそう呟いた。黒を基調とした軍服のような服、フードを深くかぶり、更に前髪によってその表情は見えないが、とても悲しげに見える。 「この前、こんなことがあってだな、……」 その後しばらく少年は自身の近況を語った。柔らかな風が吹き、優しく花が揺れていた。 「さて、行くか…」 どれくらいの時間が経ったのだろうか。少年が立ち上がった頃には、日は落ち、夜が支配していた。 少年はフードを取り、真剣な表情を十字架に向ける。髪の間からは深い青色の目が覗いていた。 「千笑、お前の敵は…必ず俺が取る。待っていてくれ」 ふと、風が止んだ。 その後、少年は墓地を後にした。止んだと思われた風は再び吹き始め、花を揺らす。 しかし、花は、悲しげに、揺れていた…。
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