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「えぇ……わかった、わ。そうね……いうとおり、に――」
粘性のある闇の中で、影が他愛もないと冷笑する。元魔術士団の人間とはいえ、所詮はこの程度かと、表情に憐憫さえ滲ませた。
つまりはほんのわずかに、油断した。
――ドゴッ! という鈍い音。
「……おや、これは」
ぼやけていた視界が、鮮烈な痛みで回復する。束縛が弱まった一瞬の隙に、メルは自身の眉間に拳を打ち込んで、堕ちていく意識を無理矢理引き戻したのだ。
見苦しく上下しかけた肩を抑え込み、体を這い回る気持ち悪さを無視して、キッと前方を睨みつける。
「……言う通りに、するわけには、いかないわ。その〝声〟、不快だからやめて」
毅然とした拒否に、ソラはしばし瞠目(どうもく)した。
そして――愉しそうに微笑む。
弁解はおろか、取り繕う気もないらしい。
「魔力による《精神干渉》とは、小賢しい真似をしてくれる。今のは確かに魔法が起こす現象の一端だった。詠唱がなかったってことは、その指輪に組まれた術式の効力ね。でも、そんな物騒な魔道具がそう簡単に手に入るとは考えにくい」
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