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「……バレちゃいましたか」
虚を突かれたとはいえ、メルほどの魔術士を短時間で籠絡しかけるほどの強力な効果。おそらく真っ当な流通にある代物ではない。しかも、ソラは発動の予兆や気配、緊張を自然な動作で巧みに隠していた。手慣れている。
冷や汗が伝う。
危なかった。今も現実感が薄い。あのまま操られていたら、ここでのやり取りで抱いた疑念すら記憶から朧に忘れ去ってしまったのかもしれない。そう考えるとぞっとした。
幾ばくか冷静さを取り戻したが、やはりこれだけは訊かねばならない。
「――アナタ、何者?」
既にメルは立ち上がって杖を取り、構えていた。しかし、それは形だけだ。注意を引くための威嚇だけで、使うつもりはない。
単純に、《ソニックスペル》を相手に魔法の早撃ちは分が悪いからだ。少しでも妙な動きをすれば、身体強化による体術で先手を取って制圧するつもりだった。
と、相対するうちの一人が観念したように両手を上げておどけてみせる。
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