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「んー…なんか『イマイチ』」 ふんっと音が出そうなほどの鼻息を吐きながら、目の前にいる山じいが言う。 なんだそりゃ。『なんか』って、女子高生かよ。 …とは言えないので、もう少しやんわり聞き返す。 「…えっと、どこら辺が『イマイチ』なんでしょうか…?」 「うーん…なんて言うの?麺が伸びちゃったラーメンてゆーか、べったりしたチャーハンてゆーかー」 今度は『てゆーか』かよ。今時流行らないっつーの。 …とはやっぱり言えないので、頭の中で噛み砕いて言葉にする。 「要するに、素材が台無しってことですか?」 「そうそう!そんな感じ!」 「…」 つまり、下手ってことだよね。そうだよね。だったら最初からそう言えばいいじゃんか。 「…描き直します」 はぁっと盛大にため息をつきたい気持ちを抑えながら、にこやかな笑顔で私は山じいに言った。 うん、頑張ってねー、提出は来週でいいからねー、と手をひらひらさせて私を見送る70近い山じいこと山路先生は、私の通う大学のしかも研究室の教授だ。 このお方との付き合いも今年で3年目。
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