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今日の山じいは、細身のビンテージジーンズに白いシャツの胸元をはだけさせ、そしてテンガロンハットをかぶっている。 それに加えて、チャンピオンベルトかって聞きたくなるような派手なバックルのついたベルトまでしてる。 さすが美大の教授。一筋縄ではいかない。 いい加減やめてほしい、この格好。 …と思っていたのは最初のうちだけで、3年もいれば見慣れてしまい、今ではこのくらいの格好では驚かなくなった。 なにせ、先生にしろ学生にしろ、ほかにもすごいのがたくさんいる。 山じいなんて、かわいい方だ。 国内外でのコンクールの受賞歴を並べたら、ひっくり返りそうなほどすごい経歴の持ち主だとは誰も思わないこのじいさんの元で、私は日々苦しめられている。 油絵学科という、就職口の一番ない、かといって絵描きとして食っていける人間なんてほんの一握りにも満たない世界が、私の今いる世界。 その中での私の作品のポジションは『イマイチ』。これ以上でもこれ以下でもない。
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