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「着いた……!」
ようやく見えた町並みに思わずそう声を洩らした。
隣の晋作の顔にも僅かに安堵が浮かんでいる。
「お疲れ様、夕霧」
そう言って私の隣で笑うのは九一。
松陰先生のお墓を改葬してすぐ、久坂は江戸を離れた。
そして私が晋作と一緒に江戸を発ったのは半月程前。
京に入るという晋作が送った文を見て、途中まで迎えに来てくれたんだ。
春を向かえた京は薄紅色の花で染まっている。
風に舞う花びらが町を彩る。
「うわあ……綺麗」
風と共に青空に舞い上がる薄紅色を見上げて呟くと、九一は一層深く微笑んだ。
「時間ができたら、お花見にでも行こうか」
「本当?ありがとう」
晋作が両手を頭の後ろで組んで空を仰ぎながら口を開く。
「花見か、昔よくやったな」
塾にいた頃は、皆でよくお花見に出掛けたりもした。
皆でお弁当やお酒を持ち寄って。
晋作が三味線を弾いて、久坂が吟って、俊輔達が踊る。
栄太が連れて来た妹とも遊んだ。
……そういえば、栄太にはしばらく会っていない。
「……栄太は元気にしてるかな」
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