9章 尊厳という名の抵抗

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 携帯電話を今度はどうするつもりなのか――それを目の前に、俺は一瞬動きが止まる。 「……お、おいっ!」  キョウヤはその携帯電話を、無造作に橋の下に流れる小川目がけて山なりの軌道で放り投げた。  キョウヤに行くべきか、携帯電話を追いかけるべきか……一瞬迷ったけど、携帯電話を持っていないキョウヤに殴り掛かっても仕方ない。  キョウヤに向いていた体を急旋回し、携帯電話に手を伸ばす。 「くそっ、間に……あえっ!」  必死で橋のへりに手をかけ、橋から落ちそうになった携帯電話を掴み取る。  携帯電話は、確かに俺の手の中に納まった。  だが――すぐに違和感を感じる。  俺にその画面を見せないために、携帯電話を投げたとしたら、どうして俺がギリギリ受け取れる程度の山なりに放り投げたのか。  力いっぱい小川目がけて投げれば確実なのに、キョウヤはあえてそうしなかった。  携帯電話を放棄するのなら、地面に叩きつけても、へし折っても良かった。  キョウヤの1つ1つの行動には理由がある――。  残念ながらそれを悟ったのは、手に収まった携帯電話の異様な軽さに気が付いたからだった。  万が一、俺が携帯電話をキャッチできなかった場合にも備えて……いや、それだけじゃない。  元々、俺とこうなる可能性すらも予測した上で、まったく同じ形の偽物の携帯電話をキョウヤは用意していたって事になる。  気が付いて体が反応した時にはもう遅かった。
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