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誰かが俺を揺さぶっている。
「……ろ」
この声は、誰だ?
俺はぼやける視界と体の気だるさに襲われながら、ぼやけて見える人影に手を伸ばした。
「ひょっとして……絶世の……美女……?」
――ざわっ。
俺の右手に宿った不快かつ粗悪な手触りで、一気に現実へと戻ってきた。
「何だ、今のは!」
「もういいか――いい加減に起きろ」
気が付けば、俺の崇高なる右手は木之本の顎鬚を触っていた。
俺を覗きこむように見ていた木之本は、顎鬚を触られながらも不機嫌な表情。
「うわっ! 最低っ」
「何が最低だよ。それはこっちの台詞だ。キョウヤはいない、探し回ればお前はこんな所でサボって寝てる。起こしてみれば俺の崇高なる顎鬚に触れた揚句、最低とぬかす」
……同じ崇高って表現を使った事にすら後悔しつつ、俺は急いで右手をズボンでぬぐいながら立ち上がった。
「別にサボってたわけじゃねぇっての」
「わかった。それは後で聞くとして……」
木之本が妙に真剣な顔つきになる。
「どうした。何かあったのか?」
俺はいなくなったキョウヤの事を思い出す。そうだ。あいつどこにいったんだ――ひょっとして木之本が何か掴んだのか?
俺の視線を受け、木之本は言いにくそうに口を開いた。
「あのな。お前みたいな若造が起きた第一声が『絶世の美女?』なんてあり得ねぇだろ。今日び、俺ぐらいの歳のヤツでも言わないぜ?」
「……それはいいから。早く行くぞ」
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