10章 さよならは、言わない

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 俺は急ぎ足で木之本の車に向かった。 「どうしたんだよ。何かあったのか?」 「ああ。キョウヤと会った」 「――何だと」  スタンガンのダメージはまったくないと言えば嘘になるが、一時的なもので大したことはない。  歩きながら体の状態を確認するが、普段通りに動くみたいでとりあえず一安心した。  そして、頭の方も顎鬚効果のお蔭かはっきりしてる。思考もキョウヤには及ばないが、今考える内容は1つだけだ。  俺が今から最優先で行かなきゃいけない場所……それは一ヶ所しかありえない。これぐらいを考えるには十分だった。 「急いで車を出してくれ。行き先は学校だ。理由は移動中に説明する」 「ちっ、仕方ねぇな。飛ばすぞ」 「……気持ち控えめで頼む」  木之本はそんな俺の頼みを意地悪な笑みと人差し指を振る動作で返した。 「悪いな。説明は手っ取り早くしないと目的地に着いちまうぜ?」  木之本は急いで車に乗り込むと、車のエンジンを入れる。  気持ちが焦っているからか、その轟音は今までよりも静かに聞こえたぐらいだった。  タイヤがキュルキュルと甲高い音を立てて高速回転する。車の加速する勢いで、俺は一気にシートに押し付けられる。  頼むから無事故で学校まで俺を運んでくれよ……こればかりは木之本に頼るしかない。俺は風を感じながら誰にというわけでもない、形ばかりの祈りをささげた。
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