14章 絶望のその先へ<2>

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「こらぁ、太田ぁ! てめぇ何ちんたらやってんだ!」  俺の名を呼ぶ怒号が署内に響き渡る。  だが、その異常さに反して、その怒号の音源に注意を払う人は誰一人としていない。そう。俺を除いては。  怒号の主ー―美樹さんと俺が相棒を組んで、何年になるだろう。  体感だと5世紀とちょっとぐらい。それぐらい、彼と過ごす時間は途方も無く長く感じられる。  美樹という名前が苗字だとわかるのに、俺は3週間かかった。ナントカ美樹だと思っていたのに、実際は美樹壮介っていう名前。  そりゃ、名前なんて別に興味ないが、普通は初めの自己紹介で覚えるもの。  それだというのに、「俺ぁ美樹だ。さっそく捜査に出る。足手まといになるなよ」という一言で挨拶はお終い。  黙って歩き出した美樹さんを追いかけるので精一杯で、美樹さんの名前が何なのかを知ることが出来たのは、ふと思い立って職員名簿に目を通したから。  そうじゃなかったら、美樹さんの名前を知る機会が俺には一度も無かったかもしれない。  そう思うと、ぞっとする……のが普通の反応なんだろうか。  よくよく考えてみると、別に美樹さんの名前を知っていて何になるんだ。 「おい、聞いてるのか!」  再び怒号。 「はい、もちろん聞いてます」  現実に帰り、目の前で鬼の形相で俺を睨む美樹さんと対峙する。  俺だって警察官。それも刑事なんて仕事をやってるんだ。大抵のワルに凄まれたって怯むようなヤワじゃない。  だけど……この人は無理だ。別格。レベルが、次元が、住んでいる世界が違う。  とにかく、この場は切り抜ける事が先決。俺は頭を切り替えた。
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