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「こらぁ、太田ぁ! てめぇ何ちんたらやってんだ!」
俺の名を呼ぶ怒号が署内に響き渡る。
だが、その異常さに反して、その怒号の音源に注意を払う人は誰一人としていない。そう。俺を除いては。
怒号の主ー―美樹さんと俺が相棒を組んで、何年になるだろう。
体感だと5世紀とちょっとぐらい。それぐらい、彼と過ごす時間は途方も無く長く感じられる。
美樹という名前が苗字だとわかるのに、俺は3週間かかった。ナントカ美樹だと思っていたのに、実際は美樹壮介っていう名前。
そりゃ、名前なんて別に興味ないが、普通は初めの自己紹介で覚えるもの。
それだというのに、「俺ぁ美樹だ。さっそく捜査に出る。足手まといになるなよ」という一言で挨拶はお終い。
黙って歩き出した美樹さんを追いかけるので精一杯で、美樹さんの名前が何なのかを知ることが出来たのは、ふと思い立って職員名簿に目を通したから。
そうじゃなかったら、美樹さんの名前を知る機会が俺には一度も無かったかもしれない。
そう思うと、ぞっとする……のが普通の反応なんだろうか。
よくよく考えてみると、別に美樹さんの名前を知っていて何になるんだ。
「おい、聞いてるのか!」
再び怒号。
「はい、もちろん聞いてます」
現実に帰り、目の前で鬼の形相で俺を睨む美樹さんと対峙する。
俺だって警察官。それも刑事なんて仕事をやってるんだ。大抵のワルに凄まれたって怯むようなヤワじゃない。
だけど……この人は無理だ。別格。レベルが、次元が、住んでいる世界が違う。
とにかく、この場は切り抜ける事が先決。俺は頭を切り替えた。
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