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……そんな事を心の中で思いながらも、オレはいつの間にかこの2人に反発する感情がなくなってしまっていた。
きっと、こいつらが経験してきた事は、オレなんかが適当に言えないぐらいのとんでもない事があったんだろう。
そうじゃなかったら、こんな顔はしてないはずだし。
素でこんなんだったら、学校ではかなりのイジメられっ子か、はたまたとんでもないワルだったかのどっちかだろう。
「じゃ。もう用もなくなったし。帰るわ」
「また、何かオレの力が必要になったら来てよ。そっちの子も一緒に。じゃないとおっかなくて敵わないよ」
……そう言うと、初めて2人は笑ってくれた。
心の底から笑った感じじゃないけど、一瞬だけの安堵の時。
きっと、この部屋を出た瞬間から――いや、オレに背を向けた瞬間からか。すぐにMGとやらとの戦いが始まるんだろう。
この現代、日本。平和で、生きていくぐらいの事は何だって出来る。後はどうやってこの退屈な人生を生きて行けばいいか――そう考えてるヤツは多いんじゃないかと思う。
だけど、そうじゃない人もいる。生きるか死ぬか。瀬戸際の戦い。
オレはどっち寄りなんだろ? 少なくとも平和で怠惰な毎日っていうよりは、刺激的な生活を送ってきたつもりだし、とはいってもこの2人を見たらまだまだなんだなと痛感する。
……ま、わかんねぇや。
オレはオレ。それこそがコードネーム、ブラックウルフだよな。
「じゃ、達者で」
「ああ」
後ろ手で右手を振る男、その左手はしっかりと女の手を握っている。
――普通にこれだけだったら、仲の良いカップルなのかもしれないけど。つくづくわかんねぇや。
扉が閉まる音が聞こえると、オレは机に突っ伏した。
ほんの一瞬の刺激的な時間。もう二度とこんな時は来ないかもしれない。
だけど――あいつらと一緒に仕事をしたら面白そうで、命がいくつあっても足りなさそうで。
それはそれで良いのかな。なーんて思ったりした。
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