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「はぁ。はぁ……」
1階から3階まで階段で昇る。たったそれだけの事なのに、タツヤの息はその途中ですっかりあがっていた。
大学生ぐらいになると、まともに運動しないとすぐに体が鈍る。だからサークルにでも入って運動した方がいい――高校卒業の時に教師から言われた言葉を思い出した。
何を馬鹿な事を言っているんだ。俺は華の大学生。何が体が鈍るだと? そんなのはもっと先の話――そうタカをくくっていたが、現実はもっとシビアだった。
タツヤの専攻しているいるのは情報学部。彼は2回生になるが、具体的に何をやっているか説明する事は未だに出来ないでいる。
情報とは何か。タツヤはそう問われると哲学と同じだと答えるようにしていた。要するに、意味のわからないものだと言いたいらしい。
そんな得体の知れない大学生活も、レポートの提出とチサと別れてからはアルバイトをこなすだけの毎日。
空いた時間にジムに行くわけでもなければ、家の周りを走るわけでもない。
少しだけ膨らみ始めた腹に、恨めしそうに手を当てながらなんとかタツヤは階段を昇った。
「――っ!?」
それと同時に、何か悲鳴が聞こえる。通常の講義では絶対に聞こえるはずのない声。
タツヤは、それがチサのものであると瞬時に察して走り出した。
さっきまで息が上がっていたはずなのに、それが嘘のよう。
緊急事態だとわかれば、まだまだ体は動くもの――そんな事をのんびりと考える暇もなく、さっきまでタツヤがいた教室へと通じる扉が近づいていく。
それにつれて、悲鳴は段々はっきりと聞こえるようになる。タツヤの頬に、冷や汗なのか階段を上って生じた汗なのか、わからない何かが伝った。
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