17章 ようこそ、新たな絶望へ

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「はぁ。はぁ……」  1階から3階まで階段で昇る。たったそれだけの事なのに、タツヤの息はその途中ですっかりあがっていた。  大学生ぐらいになると、まともに運動しないとすぐに体が鈍る。だからサークルにでも入って運動した方がいい――高校卒業の時に教師から言われた言葉を思い出した。  何を馬鹿な事を言っているんだ。俺は華の大学生。何が体が鈍るだと? そんなのはもっと先の話――そうタカをくくっていたが、現実はもっとシビアだった。  タツヤの専攻しているいるのは情報学部。彼は2回生になるが、具体的に何をやっているか説明する事は未だに出来ないでいる。  情報とは何か。タツヤはそう問われると哲学と同じだと答えるようにしていた。要するに、意味のわからないものだと言いたいらしい。  そんな得体の知れない大学生活も、レポートの提出とチサと別れてからはアルバイトをこなすだけの毎日。  空いた時間にジムに行くわけでもなければ、家の周りを走るわけでもない。  少しだけ膨らみ始めた腹に、恨めしそうに手を当てながらなんとかタツヤは階段を昇った。 「――っ!?」  それと同時に、何か悲鳴が聞こえる。通常の講義では絶対に聞こえるはずのない声。  タツヤは、それがチサのものであると瞬時に察して走り出した。  さっきまで息が上がっていたはずなのに、それが嘘のよう。  緊急事態だとわかれば、まだまだ体は動くもの――そんな事をのんびりと考える暇もなく、さっきまでタツヤがいた教室へと通じる扉が近づいていく。  それにつれて、悲鳴は段々はっきりと聞こえるようになる。タツヤの頬に、冷や汗なのか階段を上って生じた汗なのか、わからない何かが伝った。
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