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チサは、全身が真っ赤に染まっている。
タツヤは、それが目、鼻、口や耳はもちろん、全身の毛穴からも血が吹き出ているんじゃないかと思った。
「お、俺。行って来る……」
扉に近いところにいた男子学生がおずおずと声をあげて、扉から出て行こうとする。
「私も行く!」
「まてよ。俺もだ」
あまりの出来事に、それまでは誰も教室の外に出るという考えに及ばなかったのだろうか。それが教授の一声と1人の生徒の行動によって、一気に他の学生達の行動は加速する。
チサがどんな状況なのかはわからないが、別に急にゾンビになって人に襲い掛かるようになったわけではない。
それなのにこの瞬間、大半の生徒達はこの教室から抜け出る事だけに意識は集中していた。
「……」
残されたチサはどう思うんだよ……一気になだれ込むように扉へと集まる学生を、タツヤはそこから少しだけ離れ、そう念じながら冷たい目線を向けた。
もちろん、それに反応するだけの余裕をもった学生はいない。
それから数分もしない間に、教室にいるのはチサと現彼氏、そしてタツヤだけになった。
気が付けば教授までもが姿を消している。タツヤはその事実に気が付いてさすがに呆れた。
人間、いざとなったら自分だけが大事なのか――自分だけはそうなりたくない。
「――タ、ツヤ」
そう思った矢先、タツヤは名前を呼ばれて振り返る。
チサがタツヤの方を向いている。
チサの瞳は白目まで真っ赤。そんな瞳でタツヤを見つめられ、タツヤは思わず身震いした。
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