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ナオヤは食堂の椅子に腰掛けたまま、ゆっくりと時が過ぎるのを待っていた。
「隣、いいか?」
そのナオヤの向かいの椅子――さっきまでタツヤが座っていた場所に、そう問いかけながらも返事を待たずにスーツの男が座る。
「席ならそこらじゅう空いてるだろ。それに、さっきから周りをうろちょろしてただろ?」
「気が付いていたか」
ナオヤはわざとらしく呆れた顔をして見せた。
「美樹。俺が気が付かないとは、さすがに思ってないんだろ?」
「まぁ、な」
美樹と呼ばれた男は懐からタバコを取り出して火を付ける。
2人には親子ほどの歳の差があるが、遥かに年下のナオヤに呼び捨てにされても、美樹はそれを咎める様子もなく、紫煙を吐き出す。
特にナオヤに断るわけでもない。ナオヤはわざとらしく咳き込んでみせたが、それも無反応だった。
「どのみち、お前には声をかけるつもりだったんだ。先約がいたから様子をうかがわせてもらったが、別に尾行するわけじゃねぇんだ。気配を消す必要はねぇからな」
「刑事さんがこんな所まで、何の用だい?」
「何。ここで事件が起きるかもしれないって、匿名のタレコミがあってね。ここまで来たってわけだ」
「何だよ。今時の警察はそんなガセかもしれない情報に刑事を派遣するってわけ?」
美樹は笑う。表情は真顔のままだった。
「ああ、普通ならしないな。だが、そのタレコミの情報元があのナオヤの可能性が高いってんなら、俺が動かないわけにはいかない」
それを受けてナオヤも笑う。美樹と同じく、その目はまったく笑ってはいなかった。
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