21章 届かない、手

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『お前ノ絶望は、これからダ』  絶望。この単語も聞いた記憶がある。  人影は、それだけを言い終えると、まるで空気の中に解けていくように段々と薄くなり、そして姿も見えなくなった。  同時に、部屋の照明が元に戻る。それはまるで別次元から元の世界へと帰ってきた。そんな合図のようにも思えた。  ――終わった。感想はそれだけだった。  味わったのは絶望感、喪失感。そして体の心から震え上がりそうになる恐怖。  あいつの矛先は、最後は自分に向くのだろう。タツヤはそれを覚悟していた。それがいつの事なのかはわからないが、そう遠くはないはずだ。  そう――あの化け物はタツヤが思い出すのをじっと待っていた。タツヤが全てを思い出し、その上で後悔させながら殺すのが狙いだった。 「キヨミ……すまない……」  全ての緊張から解放され、タツヤは力なくキヨミの元へと歩み寄る。  守りきれなかった情けない男。  こんな状況だというのに、今度は自分が狙われるという事に恐怖を感じている、醜い男。  タツヤは自分の手を見つめた。キヨミを救えなかった、届かなかったこの手。タツヤは生きている限り、それをずっと後悔し続けるであろう。  ……これからどうしたらいいのか。タツヤは途方に暮れた。  まずはキヨミの遺体をどうにかしなくては――そう思ってタツヤは電話を探す。だが、キヨミの家には固定電話は置いていなかった。  携帯電話があれば、今時何かに困る事もさほどない。  タツヤはポケットから自分の携帯電話を取り出して――絶望した。  死の象徴。目を真っ赤に輝かせたドクロマークが、タツヤの携帯電話の待ち受けにくっきりと浮かんでいた……。
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