22章 惨劇の後

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 徒労に暮れていた。  震える手を抑えながらも警察へ連絡したタツヤは、キヨミの部屋で放心していた。  すぐ隣にはキヨミの遺体が横たわっている。だが、それにも何の感情も抱かなかった。  感情を少しでも動かしてしまえば、途端に自分自身が狂いそうになる。だから、あらゆる感情をシャットアウトする――タツヤにとって無意識に取った自分を守るための行動だった。  それならどれぐらいの時間が経ったのか、タツヤには実感すら沸いていない。入り口の扉を強くノックする音が聞こえる。 (そうだ……ロックしていたんだった)  タツヤはふらふらとした足取りで入り口へと向かう。扉のロックを外すと、すぐに刑事が顔を出した。 「……やはり、お前だったか」  その顔には見覚えがある。  美樹刑事……タツヤはそこで、全てを悟った。 「何だよ。その顔は」  美樹刑事は不機嫌そうな顔をしたが「入るぞ」という一言でタツヤを押しのけ、遠慮なく部屋に上がる。  タツヤは美樹刑事と話をするのが怖かった。そこで全てを知られるかもしれない。そうなったら、自分はどうなるのか……こんな状況でも、保身の事ばかり考える自分に嫌気がする。 「……こりゃ、相変わらずひでぇな」  吐き捨てるように言う美樹刑事は、めんどくさそうに携帯電話を持ってどこかに連絡をし始めた。  あらゆる物事の変化に付いていけず、タツヤは目の前が真っ暗になりそうになる。そんな状況でタツヤに出来たのは、何とかリビングに戻って、所在なく美樹刑事の様子を確認する事だけだった。  携帯電話を片手に、美樹刑事の苛立たしい声が部屋中に響く。  改めて見て、今頃気が付いた。その顔には強い疲労の色が浮かんでいた。
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