一章 始まりの丘の遭難者

15/29
前へ
/51ページ
次へ
 ……天国――。 「はーい、おまたせー。はい、ミルクティー……」 「そうだ!思い出した!!」 「ひゃあ!なっ、なに!?いきなり……びっくりするじゃない」  何か閃いたかのような夏樹の声にミルクティーを置こうとしたシリアの手が跳ね上がる。慌てて両手で押さえるシリアに夏樹は、 「思い出した……。僕、事故に遭ったんだ――」  事故。  それはいきなりの重い言葉だった。 「いきなりだねぇ、だけど夏樹は生きてるじゃないの。っていうことは死んでないんじゃないの?」  本来ならあの時夏樹は意識不明の重体だったはずだ。ただ違ったのは走馬灯のように時が遅く進む感覚を身に受けた時、誰かが何かを囁くように言った、暖かい温もりを感じると共に。  夏樹は声を思い出した。 「そう、それに聞いたんだ。誰かが僕に『今度はあなたが返す番だ。強くなれ』って言ったのを。でも言葉だけで、どんな声だったかまでは覚えてないし……もう一度聞けばわかるかもしれないけど……」  曇った表情で俯き、座る夏樹に彼女は言った。
/51ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加