一章 始まりの丘の遭難者

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「でもさ、もう過ぎてしまったことだよ。時間は戻らないし、言葉の通りに強くなれば何かが変わるかもしれないよ?いつまでも地べた見てたっていいことなんか何もないよ!前向きに行こう、前向きににねっ」  明るくシリアは言った。夏樹の暗い表情をものともせずに、まるで未来が幸せであると予知しているかのように。 「とにかく、今はこの世界で生きてくことが一番大事だと思うの。死んでしまっては帰ることすらできないからね、時間はどれくらい掛かるかは判らない。夏樹は……耐えられる?」  少し返答に詰まる。  有り得ないことが起こったらどうするか、それは最終的に受け入れるしかない。  物語でも同じように、起きてしまった以上はそれを受け入れてこそ抗うことができるのだ。それこそ常識知らずと常識破りに似ていると思う。  知らずして抗うことと、知り得てこそ抗うとでは大差なのだから。  夏樹は応えた。 「……耐えてみせる。どんな事が起きても、最初から耐えるなんてできるかわからない。でも、前の自分みたいに何もできないなんてそれこそ耐えれないよ……」  シリアは満面の笑みを見せる。さっきまでの重い空気をはらうように、リビングの真ん中で手を広げた。
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