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それを見た少年は、元の位置へと……糸に触れるという、元の体勢へとぴったり戻った。俺もまた、ふと気付かぬ間に、同様の場所で同様の姿勢を取っていた。
どういう事だろう、と思う間もなく、女性が口を開き、会話を開始していた。
「あら、どうしたの」
「ごめんねお姉さん、何かごみが付いているような気がして」
「あら、別に良いのよ。寧ろ、ありがとうね」
「いいえ、どういたしまして」
……上位次元での話などまるで無かったかのように、少年は女性と話し出した。その話し方の無邪気さは、naiveという単語が一番よく当てはまりそうである。
まぁ、その腹に一物あるのは、重々承知しているのだが。
「後ね、スカートに関しても少し調べていてね」
「ふうん。どれくらい調べたの」
「えぇっと、こっちは名前くらいかな。巻きスカートやら吊りスカート、キュロットやらマーメイドスカートやら、ええっと他は……」
「本当に、物凄く調べているわね。取材は何人にしたのかしら」
「お姉さんを含めて、八人だよ」
「それは感心するわ。凄いのね」
「いや、そんな事は無いよ。だって僕は研究者になるんだ、こんなくらいなら、屁でも無いよ」
また上手に話を進めるものだ、と俺もまた感心した。謙遜しつつも偉大な夢を語り、そこでまた相手にほうと思わせる。
全く、中学生でもそこまでの手腕を持ち合わせているのは珍しかろうに。
「いやいや、それが凄いのよ。そうだ、お姉さんに何か手伝えないかな。ほら、連絡先を教えてあげる。何か有ったら訊いてもらって構わないから」
「それは嬉しいなぁ。有り難う、美人なお姉さん」
「あら、お世辞上手ね。このおませさん」
「えへへ」
そんなこんなで、二人の会話が終わり、除け者にされていた俺は漸く少年と会話する機会を得た。
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