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「全く、よくやるよ。普通の人を掴まえて、あんなに嘘並べて」
「……あの人、変だよ」
「ん、どうした」
ぼそりと少年が呟いた言葉に、俺は疑問を抱いた。変だと、俺にはそんな変な様子は感じられなかった。普通に社会交流が出来ていたのだから、寧ろ俺よりもよほど一般人であろう。
そう俺が思惟するのを見抜いたか、少年はこちらを呆れたように見ながら、諭すように説明し始めた。
「考えても見なよ、彼女の過去を。どうしてあんな異常な環境下にいて、正常体を保っていられるのさ」
「……!」
「お兄さんって、変な所で抜けているよね。馬鹿だよ」
「誰が馬鹿だ」
言い種に少し腹が立ってしまい、俺はつい手を上げてしまった。と言っても、こつんと叩く程度だが、少年はまるで強く殴られたかのように、大袈裟に頭を押さえて踞(うずくま)った。
「痛っ。叩かないでよ」
「……まあ、今回は俺が愚かだったのは認めよう」
「じゃあ殴らないで欲しかったなぁ」
「大仰なことをするものだ」
「実際に痛かったのだけど」
しつこく言い掛かりを続ける少年を、はいはいと言って流した。ぎゃあぎゃあ騒ぐ少年を左手で制しながら、俺の目は女性が去った方向へと向いていた。
……よく考えると、あの女は俺に一瞬も目を向けていなかったな。幾ら少年が質問して来ていると言っても、それを近くから見詰めている青年が居れば、少なくとも疑問は持つものではないか。
……見えていなかった、のだろうか。あの女の認識可能領域が余りにも狭かったのではないのかしらん。
「……あれ。お兄さん、何だか変だね」
「ん、何がだ」
ぼぅっと考えていると、少年が俺に話しかけていた。
「お兄さんって、学校に行ってから、着替えたっけ」
「いや、その記憶は無いが」
「でもさ、何だか服が変わってるよ」
言われて自分を見た。着ているのは、ごく普通に『制服』である。一体どこが変わったのだろう。
「ネクタイの色なんだけど、緑から赤になっているんだ。おかしくないかな」
「……確かに、変わっている」
言われるまで、全く気付かなかった。何故、赤いネクタイになったのだろう。やはり、何かの因果が有ったのだろうか。
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