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と言っても、ほんの少し考えただけでネクタイの色の変化の要因が分かるとはとても思えない。ここでは諦めるのが筋だろう。
「ふぅむ、やはり何かが違う」
「ん、どうしたんだ」
俺と同じく腕を組んで悩んでいた少年が、辺りをゆっくりと見回して、呟いた。俺もそれに乗っかって見回してみた。
俺達が立っていたのは、変わらずただの路地だった。斜陽が赤く周囲を照らしており、辺りには烏が幾らか飛んでいた。その声はがぁがぁと濁っていて、この地域の未開であることが暗示されていた。
ここにおかしな点は見当たらない。放課後なのだから、夕暮れ時であることに何ら異常は無かった。
他に周囲にあるのは、たかだかブロック塀くらいである。至極普通の格好をしており、そこにも特段可笑しい所は見当たらない。
「……お兄さん、あんただよ」
突然声を鋭くして、少年が俺を睨み付けて来た。それは最早、味方を見るような目付きではなかった。全くの正反対で、仇敵を見るような、冷たい視線だった。
「さっきまでの世界では、あんたはそこまで阿呆じゃなかった」
「ほう、では何処が阿呆になっているんだ」
「さっき、僕はちらと辺りを見たよね。今までのあんたなら、ただ僕につられて周囲を見るとは思えないんだよ。少なくとも、口をぽかんと開けて見るような、無様な事はしない」
……まあ、よく俺の事を観察しているものだ。睨め付ける少年は、もう俺を味方と見做してくれているのかさえ、疑わしかった。
「あんたは確かに味方だ。でも、あんたは何かに冒(おか)されている。全幅の信頼は、もう置けない」
「……そうか。君がそう思うなら、誤ってはいないのだろう。何を信頼するかは君が決めてくれ」
「きっと、上位次元で何かされたんだろうさ」
味方と見なしているような口振りだが、どう聞いてもそこに一縷の信頼すら見受けられなかった。彼の眼鏡に適わなかったのならば、もう諦めるほかなかった。
「そうか。後は煮るなり焼くなり、好きにしてくれ」
「質問に、可能な限りは答えて貰うよ」
にやりといつものように笑った少年は、しかし冷たい瞳を俺に向けていた。俺もまた、虚無を感じつつも、にこりと返した。
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