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汗ばむ肌を撫でる風が気持ちいいと感じ始める5月末
多くの親子が遊んでいる公園のベンチで、黒と白のリバーシブルのコートを着た青年が、上を向いて、目を覆っている。彼の手には本が握られており、先程まで目を通していたモノだろう。
しばらくすると、青年が目を覆っていた手の間から雫が落ちる。
一希「くっ!ヤバい。泣ける……」
彼の名は神島一希。本を閉じると目頭を拭う。幸いなことに、公園で今の彼の姿を見ていた者は一人もいなかった。いたら変人に思われたろう。
一希「最近は年をとったせいか(※21歳 独身 フリーター)。涙腺が緩んで仕方がない」
一希は、ふう~と息を吐きだすと、彼は再び本へと視線を落とし、読書に熱中する。
一希が見ているのは、雑学王や有名本屋さん10人中10人が知らないと答えるであろうほどのマイナーな本。もちろん、流行りのドラマに比べて泣ける要素の乏しい内容だが、なぜだか彼には、序盤から涙を流すほど、強く共感できる部分があるらしい。
一希は幾分……いや、大分、他人との感覚に違いがあった。服装からいってもおかしい。いくら5月でも、今日は20度を超える快晴の上に風がない。しかも、日当たりのいいベンチで陽がガンガンに照りつけている。そんなくそ暑い気候のなか、コートを着込んで汗一つかいていない。そして、週末の真昼間から、天気のいい公園で独り読書をする寂しい20代。
パタンッ......
一希「…さて、どうしたものか」
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