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とある屋敷の一角、ロウソクの明かりを頼りに、一人の青年男性が机の前へ腰掛けて筆を執る。切れたインクを足して、革のように厚い紙へ文を書く。
青年が走らせる万年筆の音だけが室内に響き、机を照らす一本のロウソクが、長い揺らめく陽炎のごとく彼の影を落としていた。そのロウソクも残り少なくなってきたが、彼は気にとめず、ほの暗い中で筆をすすめる。
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神島醍醐様
-拝啓
久しぶり。
“そっち”は、9月に入っても残暑の厳しい日が続いているだろうな。気温の寒暖差も酷いだろうし、風邪には気を付けてくれ。まあ、医者を目指す醍醐は、風邪なんかひくもんかといつも躍起になるから…大丈夫だと思うが一応な。
…醍醐が医者になると言って一人暮らしを始めてから、早くも半年が過ぎたことになる。勉強もできて、本当に気の利く自慢の弟だ!……と、俺は思っている。実に鼻が高い!しかし、熱くなると、少し無茶をする傾向があるのが心配だ。
そうそう。ちなみに俺は今、……
“異世界”に居ます......
あっ、だが、言っておくが、今いるのは異世界といってもSF小説みたいな近未来じゃないぞ。
ここはどんな場所かと言われれば、秘境が相応しい。車はないし、まあ、秘境となれば当然と言えば当然か……
あっ!でも、なんでか。自動二輪はあるんだなー、これが……
前に、“ソイツ”に乗せてくれって頼み込んでみたら、「男は乗せない主義」って逃げるんだソイツは……あの変態め......
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