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青年は筆を止め、筆に折らんばかりの力を込めながら、肩を震わせる。
「ああ…!やめだやめ!」
青年は雑念を振り払うように頭を振りながら、紙をくしゃくしゃに丸めてごみ箱へ投げ捨てる。
綺麗な放物線を描いた紙屑はごみ箱へ…とは入らず、ごみ箱の縁へ当たって床に落ちてしまった。先程とは別の紙屑が、所狭しと散らばっているところを見るに、青年は先程から何度も同じことを繰り返しているようだ。
「妙なテンションの文脈で、死亡フラグ全開の文章を書くなんて俺らしくもない!」
青年は溜め息を吐きながら、ドカッと、背もたれに体重を預ける。彼は頭の後ろで手を組み、木目の天井を眺めながら思案する。
実は、青年は自主的に手紙を書いていた訳ではない。この世界の住人に手紙を書くことを勧められたが、滅多に家族との連絡を取らない彼にとっては、いささか難題となっていた。ついでに、その時のやり取りを思い出し、彼はムッとする。
「大体、この程度の文章なら電話か、メールなら楽なのにな……」
「キュウゥゥ!」
青年はふと、自分の左肩に重みを感じて視線を移すと、“双尾”を持つ狐似の小動物が肩に鎮座していた。
小動物にとって、青年の肩は定位置なのか……上機嫌の小動物は尾をなびかせて頬を擦り寄せている。本来なら存在事態怪しい生物を前に、彼は自然に接する。
「キサク?起こしたか……悪いな」
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