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ひとりの男の話をしよう。
命令とあらば容赦はなく、誰よりも苛烈に、老いも若きも関係なく、国の為に無差別に殺し尽くしたひとりの英雄の物語りを。
その男が軍に入った目的自体は、別段と珍しい物ではなかった。
たった一人、男に残された家族を養おうと、そう思って軍に入っただけであった。
暗殺部隊に配属されたその男は、稼ごうと働けば働くほど、人を殺す術に長けていった。
家族の為に働けば働くほど、男の足元には骸の山が積み重なっていく。
男がそのことに気付いた時、それでもそれを是とし、決して暗殺部隊を抜けることをしなかった。
養うためと若い心を凍らせ、まるで殺人マシーンのように他国の人々を殺し続けた。
ただ無感情に上から命じられるまま、人を殺し続ける人生を送れていたのなら、男には何の苦悩もなかっただろう。
しかし、男は遂に完璧な殺人マシ―ンになることは叶わなかった。
いくら無表情でその手を血で染めようとも、妹の前では素の自分に戻らなくてはならなかった。
その時に、罪の重さから自分に問いただしてしまう。
自分はどこから間違っていたのだろう――と。
エミールが軍に入って十年余り、その答えは未だ見出せずにいた。
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