私立聖ブルージョークス女学院2

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「……あ、あのう、シスター。上げ足を取るつもりはないんですが、それをおっしゃるなら『魚心あれば水心』なのでは?」 「え?あら、そうだったかしら」  そして再びドアの外へ出てシスターにもう一度礼を言い、去り際に環はふと思いついて振り返ってシスターに尋ねた。 「あのう、ひょっとしてシスターは、この学院の卒業生でいらっしゃいますか?」 「あら!よくお分かりになりましたわね。それが何か?」 「あ、いえ、何でもないんです。お世話様でした」  そしてシスターから充分遠ざかった所で環は思わずつぶやいた。 「やっぱり、ね」 July  夏休み前の一学期の期末試験が終わった翌週、環は自分が英語を受け持っている3年生のクラスの答案を返していた。ミッション系のお嬢様学校だけあって単語の語彙の問題などはなかなかのレベルなのだが、どうも全体の意味を把握する力に難があるように環は感じていた。  そこで一問だけユニークな設問を混ぜておいた。環がそれでいいかどうか相談した英語の教科主任の年配の教師は承諾はしたが、苦笑を浮かべてこう言った。 「いやあ、ビートルズが音楽の教科書に載った時も驚きましたが、今や英語の問題にもなるんですな。こりゃ、私がじいさんになるはずだ」  それはこういう問題だった。 「次の人名から連想される人名を英語で一つ答えなさい。ポール(ビートルズ)」  わざわざビートルズの一人だと断っているのだから間違えるはずもないだろうと思っていたのだが、環は採点しながら頭を抱えてしまった。そのクラス35人中、正解者は二人だけという有様だったからだ。  その間違った答の一覧をメモした紙片を片手に、環は生徒たちに詳しく説明をしておく事にした。 「いいですか、わざわざビートルズって書いてあるでしょ。だから……」  環はホワイトボードに大きく「Paul」と書いて見せた。 「ポール・マッカートニーの事に決まってるでしょ。はい、このポールの相棒と言ったら誰?」  そう言って一番前の列の生徒を指す。その生徒は不正解組の一人だったらしく、頭をかきながら立ち上がって照れくさそうに笑いながら言った。 「あ、そうか。ええと、ジョン?」 「そう。ジョン・レノンね」  環はホワイトボードに「John Lennon」と書いた。
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