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「ビートルズの曲のほとんどはこのポールとジョンの共作だと言われています。まあ、ジョージ・ハリスン、リンゴ・スターでも正解にしてあげようと思ってたけど、正解者はジェイ・オー・エッチ・エヌと書いた二人だけでした」
それから環は手元のメモを見ながら、またホワイトボードに大きく「Ball」と書いた。
「32人が答えたのがこれ。あなたたちが考えた『ポール』は多分これでしょ?」
環はホワイトボードに今度は「Pole」と書いた。
「発音は同じでも、これは棒とか竿という意味の単語です。サオにはタマって、あなたたちは他に思いつく事がないんですか?」
環は最後に残った不正解の単語をホワイトボードに書いた。書き終わった時にやっと気がついて、すさまじい勢いで生徒たちの席の方に振り向いて怒鳴った。そこには「Hole」と書いてあった。
「こら!誰だ?これ答えたのは!サオには穴って、いや、ある意味では正解かもしれないけど、だからこそ余計に問題があります!」
あと数日で終業式という日、寮へ戻る途中でチャペルの側を通りかかった環は、えも言われぬ甘い香りがチャペルの中から漂って来るのに気づいた。どうも香水の匂いに思える。聖ブルージョークス女学院では生徒はもちろん女性教師でも勤務中の香水の使用は禁止されているはずなので、ゆゆしき違反行為だ。
環は憤然とチャペルに足を踏み入れたが、そこには学校に出入りしている5人もシスターが、壁に掛かっている一枚の絵の下で祈りを捧げているだけだった。うち一人が環に気づいて声をかけてきた。
「あら、神津先生。どうかなさいましたか?」
「あの、いえ、この中から香水の匂いが流れて来たように思ったんですが。もしそうなら校則違反ですから……」
「ああ、これの事でしょう、きっと」
一番年長のシスターが環を手招きし、真っ白い壺とその前の小皿で小さな炎を上げて燃えている灯を指差した。
「これは香油という物ですよ、先生。今日は7月22日、マグダラの聖マリアを記念する日ですから」
「ああ、最近アロマセラピーとかでも使うあれですね。でもそれが聖母マリアと何か関係が?」
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