私立聖ブルージョークス女学院2

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April  神津環がその地方都市の鉄道駅に降り立ったのは、まだ春浅い4月1日の事だった。今年大学の教育学部を卒業したばかりの彼女は採用先の学校が見つけられず、困っていたところに昨年同じ大学の学部を卒業した先輩が、一年間の非常勤講師としてこの街の私立女子高で働いてみないか、と誘ってくれたのだ。  病気で英語の先生が一人長期休職してしまい、その代理を探しているという事だった。英語教育専攻だった環には渡りに船の話だったので、すぐに引き受けた。  それに実は環は大学時代からその先輩に、密かに想いを寄せていた。もっとも先輩が卒業するまで、何も言い出せなかったし、当然何もなかったのではあるが。  学校の誰かが駅まで迎えに来てくれるという事だったので、駅の出口で数分スーツケースに寄りかかって待っていると、一台の軽乗用車が環の前に止まり反対側のドアからあわてた様子で若い男が飛び出して来た。  環は急いで髪が乱れていないかなどチェックした。まさか、大学のその先輩自身が迎えに来てくれるとは予想していなかったからだ。その先輩の名は片山左京といった。彼はうっすら額に汗を浮かべて環に頭を下げた。 「いや、すまん、タマキ君、待たせたかな?」  環は真っすぐ立ち上がって深々と礼を返した。 「いえ、今着いたばかりです。わざわざ迎えに来ていただいてすみません、片山先輩。あ、でも今日からは片山先生と呼ぶべきですね」 「はは、それなら僕も君の事を『コオヅ先生』と呼ぶ事になるな。ま、なんにせよ、これから一年間よろしくな」 「はい!こちらこそ!」 「よし、荷物はそれだけかな?じゃあ後部座席に積んで」  その高校までは車で十分とかからない場所にあった。カトリック系のいわゆるミッションスクールの私立女子校で、地元ではお嬢様学校として有名だと聞いている。  校内には荘厳な形のチャペルまである、レンガ造りの校舎が並ぶ、いかにもキリスト教系の上品そうな学校だ。その名も「聖ブルージョークス女学院」。「聖」と書いて「セント」と読む。  だが、雰囲気にはだまされないぞ、と環は心の中で思っていた。環の大学の教育学部には女子校出身者が多く、その女子校特有の無神経さには在学中さんざんムカつく思いをさせられてきたからだ。というわけで、環は女子校とその生徒に対しては根深い偏見を抱いている。
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