私立聖ブルージョークス女学院2

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「その年によっても違うわよ。イースターの日付はね、『春分の次の満月の後の最初の日曜日』なの。その春分というのも日本で言う天文学的な意味での春分の日ではなくて、古代ローマ帝国で使われていた暦で決まるの。日本の旧暦みたいな物ね。でもって、ローマン・カトリックなんかの西方教会と、ロシア正教なんかの東方教会では違う暦を使って計算するから、そんな事になるのよ。西方教会でもイースターの日って3月だったり4月だったり、遅い時は5月だったりするのよ」 「はあ……すいません、もう一ついいですか?タマゴ探しとかのイベントなのは、あたしも英語教師ですから知ってはいるんですけど、なぜタマゴなんでしょう?」 「昔は動物性食品は何でもご馳走だったからでしょうね。レントが終わって初めて食べる物だったんでしょうね、昔は」 「は?レントって何ですか?すみません、あたしはクリスチャンではないので……」 「ううん、まあ肉などを食べない期間と言ったらいいかしら。ほら、日本でもお正月から始まって、節分とか節句とか、一年をいろんな期間に分けていろんな行事をやるでしょ?キリスト教でも似たような物があるのよ。うちの学校は現代でも取り入れられる物はできるだけ学校行事にも取り入れるという方針なの。まあ、一年ここで働いていれば段々分かってくるわよ」 「はあ、そういうものですか?」 「さあ、着いたわ。ここが今日から神津先生の部屋です。では夕方また呼びに来ますから、それまではゆっくり休んでいて」 「どうも、ありがとうございました」  環は自分の部屋のドアを一度閉め、また開けて首を廊下に突き出し、すぐ近くのイースターイベントのポスターを見つめて独り言を言った。 「どうして『ラン』と読む方の卵の字を使わないで、一枚残らず『玉』子と書いてあるのかしら?」 May  新緑が芽吹く5月の最初の頃、環の靴箱にピンク色の封筒が入っていた。中のこれまた乙女チックな柄の便せんには「明日の夕方5時、校舎裏の桜の木の下で待っています」と書かれていた。  環は「ハアッ」とため息をついた。噂に聞く女同士のラブレターというやつか、と思った。新任の環にさっそく目をつけた女生徒がいるらしい。環にはそっちの趣味はひとかけらもないので放っておこうかとも考えたが、世の中そんな甘いものじゃない事を教えてやるのも教師の務めだろうと思い直して、翌日その場所へ向かった。
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