私立聖ブルージョークス女学院2

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 次の組が走りだし、一人の生徒が環に向かって猛然とダッシュして来た。それはこの前、環に愛の告白をしようとした、あの川本愛梨だった。環は一瞬逃げようかと思ったが、借り物競走の紙に書いてあるのがもし「新任の先生」とかだったら、彼女に可愛そうな事をする事になると思い直した。  川本愛梨はやはり環に「先生、一緒に来て!」と頼んできた。まあ、しょうがないか、と思い環は彼女と手をつないで一番にゴールに飛び込んだ。綾瀬先生が紙をチェックする係だった。彼女は紙に書いてある内容を見てすぐに首を横に振った。 「これはだめよ、川本さんは失格」 「ええ!どうしてですか?」 「よく見なさい。紅茶を入れるアレの事よ」 「え、しまった!」  環も横から首を突き出して紙に何が書かれているか見た。そこにはこうあった。 「ティーバッグ」  環が憤然として傍らを振り返った時には、既に川本愛梨は10メートルほど向こうに走り去っていた。環は彼女を追いかけて走りだしながら怒鳴った。 「こら!間違えたのもさることながら、なんであなたが今日あたしが穿いているのがTバックだって事を知ってるのよ!これはあくまでスポーツ用の……じゃ、なくて、とにかく待ちなさい!」 June  梅雨が近づいてきた蒸し暑い日の午後、環は科学部の顧問補佐として片山と一緒に校舎の一つの屋根に上る羽目になった。屋上に太陽光発電パネルを設置するためだった。去年の東日本大震災以降の電力不足はこの地域にも及んでいて、科学部の生徒たちが自家発電装置を学校にも導入してはどうかと提案したのだ。  とは言え、女生徒だけで屋根への設置をやらせるのは危険だという事で、環に加え片山も駆り出されたというわけだった。三階建の屋根の上へは屋根裏部屋から出られるようになっていたが、さすがに環も下を見ると脚が震えた。  女生徒たちは屋根への出口で待機させ、環と片山の二人で畳一枚ぐらいの大きさの太陽光発電パネルを南向きに取りつける。その作業の最中、片山がふと背後の木の茂みの辺りを振り返った。 「片山先生、どうかしたんですか?」  環はいぶかしく思って訊いた。片山は元の方へ向き直り、少し顔をしかめて答えた。 「いや、なにか最近、誰かにじっと見つめられているような気がしてしょうがないんだよ。いや、まあ、気のせいだろうとは思うんだが」
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