ストロベリーライン・フォーエヴァー

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 バイクごと飛び込み自殺をするのに良さそうな海岸を探していたら、ずいぶん北の方まで来てしまった。途中で警察が通行止めにしている海岸沿いの道路があったので内陸に大回りし、また海辺の道へ戻った。  どうせなら何かの映画で見たように、思いっきり宙を飛んで海に飛び込んでやろうと美咲は思っていた。人生最後の瞬間ぐらい、思いっきりカッコつけて思い通りにやったっていいだろうと。  やがて漁港らしい場所が目に入った。妙にぼろい感じの、いかにも田舎の港という感じだったが、人気がない分邪魔も入らないだろう、と美咲は思った。港の入口で海の方を見渡すと長いコンクリートの消波堤が結構長く伸びているのが見えた。 「もう、ここでいいや」  美咲はそうつぶやいてヘルメットを地面に置き、ポニーテールの長い髪をほどいてアクセルを思いっきり吹かした。そのまま海の方へ走り桟橋を通り抜け、消波堤の上に乗り上げた時、後ろに停泊している船の陰から誰かが飛び出してきて何かを美咲に向けて叫んだ。だが美咲はかまわず細い消波堤の上をバイクで走りどんどんスピードを上げた。  昔から他人と仲間になるのが下手だった。むき出しの顔に潮風が当たるのを感じながら美咲は思った。それは社会に出ても変わらなかった。常に周りから「変わったヤツ」扱いされながら、それでもがんばって来たつもりだった。  会社の仕事も自分なりに頑張った。二年目からは後輩の仕事の面倒も一生懸命見た。だが美咲が必死の思いで集めていた新規顧客開拓の情報を、会社のイントラネットから先輩社員たちに盗まれていたのに気づいた時から、美咲の会社での居場所はなくなった。  美咲あてに送られて来ていた顧客からのメールや、美咲が後輩たちの教えてやるために送っていたメールの内容を、その先輩連中がのぞき見して自分の手柄にしていたのだ。確かに会社のイントラネットなら、メールなどの内容を会社が無断でチェックする事は許されている。だが、それは社員の不正を防ぐとか私的な使用を監視するとか、そういう目的ならば、のはずだ。  それを知った美咲は猛然と部長に抗議したが、部長は全く取り合ってくれず逆に美咲が周りから嘘つき呼ばわりされるようになった。
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