第2話

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 終業式が近くなった翌日、最後の6時限目の現国は先生の都合とかで自習になった。俺はそれをいい事に教室中をうろうろ動き回る組だったが、前島は机で一人静かに本を読んでいた。あいつ、いつもこういう時は独りなんだよな。それで女子にも友達が少ないんだが、今では俺はそれが、前島の頭が良すぎて周りがついていけてないんじゃないか、って思うようになっていた。  調子に乗って騒ぎすぎたようで、突然教室のドアがガラっと開いて担任の体育教師が乗り込んで来てしまった。  俺たちはあわてて自分の席に戻る。イメージ通りのジャージ姿にサンダルの担任は分厚いファイル帳で自分の肩をとんとんと叩き、俺たちをにらみつけながら教室の中をゆっくり歩き回った。そして前島の机の横でぴたりと足を止め、中年オヤジ特有のざらついた声で前島に向かって言った。 「おまえ、自習の時間に何をしている?」 「え? あの、現国の自習なので……」  前島はきょとんとした表情で小さな声で答えた。 「読書をしていますが?」  次の瞬間、担任は持っていたファイル帳を力任せに振りおろし前島の手からその本を叩き落とした。 「校内で自習時間中にこんな物を読むのが読書か? ふざけるな!」  近くの席だった俺は思わず床に落ちた文庫本の表紙に視線をやった。そこには「文学少年とやりたがりの道化」というタイトルがあった。あ、あれはまずいな。前島のやつ、普段から平気で18禁の文学作品なんか読んでいるから気づかないんだ。 「な、何をするんですか? それはれっきとしたライトノベルで、それも『あのライトノベルがすげえ!』の総合ランキング1位になった事もある……」  だが担任は床から本を拾い上げ、ファイル帳で前島の机の上をバンと叩いて前島の抗議を黙殺した。そして教室中に響く大声で怒鳴った。 「2009年だけは例外だ! 神聖なライトノベルの世界に『文学』などと言う下劣な概念を持ち込みおって! この年の審査員は一体どこに目をつけていたんだ!」  怒られているのは前島であって俺じゃないんだが、俺自身もなんだか落ち着かない気分になってきたのは何故だろう? とはいえ俺は心の中でこう前島に必死で語りかけた。とにかくここは謝っとけ。いくら正統派のライトノベルでも学校で「文学少年シリーズ」は、そりゃまずいだろ。
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