第2話

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 俺は前島の本を一時没収で終わりだと思ったが、担任は何か面白くない事でもあって虫の居所が悪かったのか、ネチネチと続けた。前島の前の席の生徒が持っていた本を「ちょっと貸せ」と言って取り上げ表紙をクラス全員に掲げて見せた。それは「アホと試験と召喚魔法」の第1巻だった。 「いいか、自習時間に読書をするのはいい事だが、選ぶ本を間違えるな! これは『あのライトノベルがすげえ!』2010年総合1位の名作。日教連の長年の努力で大学全入が可能になるまでこの国を蝕んできた、受験競争という物がまだあった時代の学校生活がいかに悲惨で非人間的な物だったかを描いた、社会派の告発小説だ。読むならこういう物を選べ」  担任はその本を持ち主に返し、前島が持っていた本を両手で持ち、そして力任せに縦に引き裂いた。そこはヤワな造りの文庫本、筋肉バカの体育教師の腕力にかかればあっという間にばらばらになってしまった。担任は本の破片をこれ見よがしに前島の机の上に放り投げた。そしてこう捨て台詞を残して立ち去ろうとした。 「ふん! やはり親が自衛隊なんて奴はろくでもないな」 「親の職業は関係ないでしょ!」  そう叫んだのは前島ではなく、なんと俺だった。俺は自分でも気づかないうちに机の上に両手をついて立ち上がっていた。前島を含めてクラス全員がギョッという目つきで俺を見ていた。  まあ、みんなが驚くのも無理はない。一番驚いているのは俺自身だったからだ。そりゃ担任のやった事はいくらなんでも行き過ぎだとは思うけど、だからってセンコーに面と向かって食ってかかるなんて、俺はそんなキャラじゃなかったはずなんだけどな。  前島の父親が自衛隊員なのは知っていた。それで学校の教師たちから何かにつけて嫌味を言われてきたのも知っている。ただ、どうして親が自衛隊だと学校で教師に嫌われなければならないのか、それは俺には今でも分からないんだが。  担任は一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに教壇に歩いていきファイル帳を胸の前に持ってきてこう言った。 「ようし、ではクラス全員の意見を聞いてみよう。他に誰か、私の言った事に疑問を感じる者はいるか?」  担任はそう言ってこれ見よがしに胸の前のファイル帳をパタパタと前後に揺する。その表紙には「内申書記録」と書いてある。高校進学の時に俺たちの中学時代の素行とかを書いて提出する、アレだ。
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