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ちきしょう、汚いな。そんな物を目の前でちらつかされたら、本音を言える奴なんているわけねえじゃねえか。案の定、クラスの全員が目をそらして何も言おうとしなかった。担任は勝ち誇った笑いを顔中に浮かべて俺に言った。
「見ただろう? お前たち二人以外には、異論のある者はいない。つまりこのクラスの圧倒的多数が、先生の方が正しいと言っているわけだ。それが多数意見ならそれが正しい。これが民主主義という物だ」
それから授業時間終了のチャイムが鳴るまで、前島は無表情な顔で机を見つめて身じろぎもしないでいた。だが、時々目から涙があふれそれを急いで手でぬぐい、そんな事を繰り返していた。
俺はこんな時に女の子をどう扱ったらいいか、見当もつかない。チャイムが鳴ると同時に俺は前島の腕を取って保健室に引っ張って行った。前島は見るも無残にばらばらにされたさっきの本の破片を拾い集めて鞄に入れ、それからやっと机から立ち上がった。
保健室へ着くと、園田先生もすぐに普通でない前島の様子に気づいたようだった。俺がざっと教室での出来事を離すと、先生は右手を頭にあてて海より深そうなため息をついた。
「それはちょっと行き過ぎね。それに親が自衛隊や警察官だから、どうのこうのって、またそんな事が始まったのね」
前島は必死で感情を抑えていたのだろう。先生の言葉にほっとしたのか、ソファの背もたれに顔をうずめて声を上げて泣き出した。
「どうしてよ! これだって一度はライトノベルの傑作だと認められた作品でしょ? 『文学』という言葉が入っているだけで、どうしてこんな扱いを受けなきゃいけないのよ? うわあ!」
先生が前島の肩をつかんで落ち着かせようとしたが、前島は堰を切ったように泣き叫び続けた。
「ライトノベルを読めって言うならいくらでも読んでやるわよ! 読んできたわよ! 『とある秘術の禁じ手目録』だって全巻読んだのよ」
前島の言葉に俺は別な意味でびっくりした。あの大河小説を……全巻!
「それだけじゃないわ! スピンオフの『とある科学のスタンガン』も全巻読んだわよ!」
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