第2話

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 そして終業式の日。今までならさあ、夏休みだって事で浮かれまくっていた俺だが、今年は受験の年だって事を差し引いてもそんな気分にはなれなかった。園田先生とのやり取りが妙に頭の中に引っかかっていたからだ。  そんな考え事をしながら歩いていたから、つい校門をそのまま通り過ぎてしまった。すると校門で生徒の登校を見守っていた教師が、すごい剣幕で俺のところに駆けつけて来た。 「こら、君! ちゃんと国旗に礼をしないか!」  あ、いけね。今日は終業式だから、校門の脇に日の丸の旗が掲揚してあったんだ。俺はあわてて3メートルほどの高さのポールの上の日の丸にぺこりと頭を下げたが、その教師からたっぷり一分間説教を食らう羽目になった。 「まったく、戦後一貫して国旗国歌を尊重してきた日教連の努力を何だと思っている?」  やっと解放されて下駄箱にたどり着くと前島が、陰からひょいと顔をのぞかせた。 「松陰君、災難だったわね」 「ああ、園田先生の言葉の意味考えながら歩いてたら、うっかりしちまった」 「でも、国旗や国歌への愛着とか愛国心なんて、強制されて身に付くものじゃないと思うけど。日教連の愛国主義教育って……」  俺はあわてて前島の言葉を遮った。 「シー! よせ、またセンコーの誰かに聞かれたら、ややこしい事になるぞ」  体育館での終業式でも国旗が飾られ、国歌「君が代」の斉唱中、教師たちは目を皿のようにして、耳をダンボのようにして生徒が全員歌詞をちゃんと本当に歌っているかどうかチェックしながら生徒の列の間を歩き回った。それにしても国歌を口パクなんてするわけねえだろ? 何なんだ、これは?  そして俺と前島は背筋に冷水がツーと一筋走るような感覚を味わう事になった。保健室の園田先生が二学期から転任になるという話を突然檀上の校長の口から聞かされたからだ。自分が突然いなくなる事があったら……あの言葉はこういう事だったのか? しかも先生本人は手続きに忙しくて終業式に出席出来ないのでいない、と言う。  変だ。俺にはそう思えてならなかった。こんな中途半端な時期に転任というのも納得いかなかったし、いくら忙しいからって生徒に別れのあいさつもなしって、それはどう考えても普通じゃない。
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